moon Gamer>「あの商品をあの町に運べばどのくらいの利益が出るだろうか、とか、あの商品がこれだけあるとあの地方ではかなりだぶついて値が下がっているのではないか、など、次から次へと、色々な考えが頭の中を駆け巡っていく。
駆け出しの頃はほとんどの商品について高いのか安いのかわからずただただ市場を右往左往していたのに、今では色々なことがすぐにわかる。
網の目のように張り巡らされた商品の相関図を完全に把握した時、商人は錬金術師になる。」

~「狼と香辛料」第3巻P59より引用~

これは商人に限った話ではありませんが、よほどの才能と運に恵まれでもしない限り、人はどのような職業に就いたとしても最初はうまく立ちゆかないものです。「狼と香辛料」の主人公ロレンスにも苦労した下積み時代があったようで、時々そのようなエピソードが断片的に回想として書かれることがあります。

前回の Ep.2 において、僕は「Star Trader / SPI」のフリーシナリオは、新参商人のロールプレイであると書きました。もちろん「Star Trader」は競技性の高いボードゲームではありますが、実は版元である SPI 社が当時発売していたTRPG「Universe」にも流用可能なようにもデザインされています。ボードゲームとしてはルールは多いように見えますが、TRPGとしてみれば普通のボリュームではないかと思います。

何より「Star Trader」のルールは、この世界に生きる商人たちの目から見た多くの理が定義されているだけであって、そこでどのように生きるかはプレイヤーの判断と行動に委ねられている点が素晴らしいのです。新参者である商人が、この地でどうやって成り上がれるか、そのサクセスストーリーの主人公にでもなった気持ちでプレイすることこそ、「Star Trader」を心の底から楽しむ秘訣であると言えるでしょう。

このエントリーでは、これら成功への道を徐々にステップアップしていく様子を演出する仕掛けとして、商人の経験と成長などを表現している多くのルールについて解説しましょう。


Star Trader / SPI moon Gamer

多くの道があり、そして多くのドラマがある。

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マーケットポジション(市場職能序列)

>「行商人が初めて訪れる商会に物を売る時、最も困るのは余所者(よそもの)ということで安く買い叩かれることだ。ポロソンやパッツィオ程度ではそういうことも少ないのだが、リュビンハイゲンほど大きくなり、町の商会がさまざまな召還や組合と密接な取引関係にあるところではそういうことが多々ある。」(『狼と香辛料』第2巻P160より)

「Star Trader」の商人は市場で取引を試み、それを成功させることで自らの経験を積み上げていきます。きっとその過程でさまざまなノウハウが生み出され、その市場に不慣れな他のプレイヤーよりも有利に取引を進める能力は身についていくのでしょう。しかしその市場の取引にどれだけ慣れていたとしても、他の地にある市場では勝手が違い、その経験が十分に生かされないかもしれません。

このような状況を簡潔に表現するルールが「マーケットポジション」です。ある恒星系において、特定の商品の取引を6個以上行った場合、そのプレイヤーの「マーケットポジション」のランクが上昇する可能性があります。

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より上のポジションへの昇格を成し遂げれば、ダイスによる不安定な市場との取引を確実な交易機会に変貌させる強力なオプションを行使ことが出来るようになります。


コネクション

>「誰も商売の危険や事故から身を守ってくれない世界なのだ。騎士達が鎧兜で身を固めるように、商人たちは人同士のつながりで身の安全を守る。」(『狼と香辛料』第2巻P152より)
>「異国の地で商売を成功させるには、とにかく強力な耳を持つことだ。」(『狼と香辛料』第1巻P177より)

商いに予期せぬアクシデントは付き物です。これから突発的に発生するであろうさまざまな事件を察知したり、危険と背中合わせの大きな利益をもたらす商機の成算など、商人にとって正確な情報収集能力は必要不可欠な素養です。「Star Trader」ではこれを「コネクション」というルールで再現しています。

コネクションには「政治」「ビジネス」「犯罪」の3種があり、個別に数値管理されます。つまりそれらの方面に対して詳しい情報を持っているとか、あるいは人脈が広さなどを抽象的に表現しています。

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ゲームにおいてこれらのコネクションが頻繁に使われるケースは「ニュースチット」の調査でしょう。

ニュースフェイズにおいて、ターントラックにはニュースチットが裏返しで置かれます。これは現在のターンより先のターンに発生するイベントや機会を表すチットです。裏返しに置かれるので、具体的に何が発生するかはわかりませんが、何かが起こることだけは誰でもわかります。

わずかなコストの他に、そのプレイヤーが必要なコネクションを保有していれば、このニュースチットを事前に「調査」することが出来ます。より重大なニュースを知るには、より大きなコネクションが必要であるのは言うまでもありません。多くの情報を予め知ることによって、その恩恵を受けることも、余計な災難に巻き込まれないようにすることも出来るわけです。


名望 -Reputation-

>「商人は信用が命だ。信用をなくせばもうどこからも救いの手は差し伸べられない。」(『狼と香辛料』第2巻P210より)

「Star Trader」の舞台となる世界は、それ自体がひとつの社会であり、プレイヤーはそこで生活をする行商人のひとりとして扱われます。そこは成熟した社会であり、当然のように法律が存在し、また人々の目もあります。正当な貿易を続けることで社会的な信用が増大する一方、無法な振る舞いを繰り返せば犯罪者として裁かれるかもしれません。このゲームではこれを「名望」というパラメータによって表現されています。

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マーケットポジションの上昇や、政治・ビジネスコネクションの上昇によって名望も上昇します。しかし犯罪コネクションの上昇は名望の下落を招きます。またそれを望まない相手に戦闘を仕掛けたり、他人の宇宙船などの破壊工作(サボタージュ)を試みたりすると、その結果如何に関わらず、名望は著しく下がる可能性があります。

名望が一定レベル以上になると、毎ターンボーナス資金が得られます。しかし名望が極端に低いと治安当局から目を付けられて査察を受けやすくなり、商人としての行動に大きな制約が科せられます。そして名望がゼロになるとゲームから脱落してしまうことになります。


「24世紀の世界で生業を持つ市民であること」を体験することこそが、「Star Trader」が実現しようとしている理念のひとつです。一見すると広大過ぎるように見えるルールは、プレイヤーのさまざまな経済活動の選択肢を増やしているだけではなく、未来の基礎的な社会基盤を描写することで、バックボーンとなる背景世界のイメージを生き生きと浮かび上がらせることにも成功しています。しかもそれは決して教条的なだけではなく、密輸や暴力行為などの犯罪的な生き方も許容する奥行きの深さを兼ね備えている周到さです。

まだ説明していないルールとして、商品の生産施設である「工場」(それ自体が投機対象)や、その保管場所である「倉庫」(これを利用して入札可能)、特殊能力を持つ「エージェント」(強烈なアクセント)、そして「Star Trader」を他の交易ゲームと一線を画す要素である「サボタージュ」「戦闘」(最後の手段として直接攻撃もアリ)など、それぞれ詳細にレビューしたいところなのですが、それはまた次回プレイのレポート時の楽しみに取っておくことにしましょう。


ところで3/29(土)のレポートも簡単に。序盤につなきさんと入札でバッティングした影響で、交易で利益を出したのがやっと5ターン目くらいでしたか。しかし転売で儲けようと Tau Ceti に建てたアイソトープ工場は、相場が最後まで原価あたりで止まってしまって今ひとつの出来。ただ、ここで生産されたアイソトープは Beta Hydri で相場が上昇して高く売れたので、この間の航路を乗客を運びながら確実に利益を出して行きました。

この利益を2隻目の宇宙船建造に投資し、さらに Sigma Dracnis ⇔ Beta Hydri 間の香辛料転売ルートも利用するなどして利幅を拡大させました。この後、イベント「General War」の余波で、船体+ポッドを220%の高利で売却に成功したり、機会チット Exploration Expedition(探検隊)の派遣に失敗(宇宙船全損…)したりと出入りの激しい展開に。moon Gamer

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しかしエージェント Crip をうまく雇用できたことで、Sigma Dracnis から安く大量に香辛料を調達し、さらにそこに建設した香辛料工場も供給源として、Beta Hydri や Epsilon Eridani などの需要市場に転売するルートを確立し、大商いをいくつか成立させることが出来ました。

が、このあたりのタイミングで、主にプレイヤーの体力的な問題で協議終了となりました。フリーシナリオの勝利条件は1000HTの資産で、僕の手持ち現金がすでに600HTほどありました。香辛料市場に大量売りを仕掛けたので相場が全世界的に落ち着いてしまってはいましたが、このまま行けばあと2ターンもあれば勝利条件に達していたと思います。

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が、当然ながらそうはすんなり勝たせてもらえるわけはなく、戦闘に突入する展開に持ち込まれたでしょう。何しろつなきさんは非合法品の Battle Comm Pod(電子戦用ポッド)を入手しており、やろうと思えばいつでも迎撃から戦闘に持ち込むことは可能な形になっていました(この電子戦用ポッドが場に出てきた時の緊張感といったら…!)。しかもこの時つなきさんは、サボタージュに大きな修正値をもつ Dwarf まで持っていたのです。

また交易面でも、他の2人とも大きな利益を上げる形が出来ていたので、もっと時間があればかなり面白い競った展開になっていたと思います。終了時点で全17ターン、プレイタイムは実質的に7時間半ほどでした。時間を短縮するために船の設計は事前に行っておくなど工夫をすれば、1日あれば十分に終わるゲームですね。

レポートは以上です。長時間に渡ってお付き合いいただいたつなきさんと taro さんには心から感謝いたします。長い期間をかけてルールをリライトした甲斐があって、長年にわたって機会に恵まれなかったゲームをついにプレイすることができました。ありがとうございました。またぜひ再戦しまししょう!moon Gamer