3/16(土)は、地元の千歳烏山はゲーム倉庫にてゲーム会を開きました。いらっしゃったのは、ふうかさん、かろくさん、いたるさんの3人で、僕を入れて計4人でした。この日は2時間級と軽量級を2ゲームずつ計4ゲームを遊びました。例によって、ゲームごとに分割してレポートします。
◆概要
この日の最初のゲームは Express 01 (エクスプレス01) / Pegasus Spiele でした。鉄道建設と鉄道会社の経営をテーマにしたカードゲームです。
基本ゲームではドイツが舞台となっており、プレイヤーはこの地に鉄道網を建設したり、それらを発展させたりできます。またプレイヤーは投資家でもあり、事業の拡大が見込めそうな鉄道会社の株券を購入し、その会社の運営に携わることで資産の増大をもくろむこともできます。
◆アクション
手番でできることは、「鉄道網の改良して、株券を購入する(あるいはその逆)」「鉄道会社を運用して配当を獲得、プレイ順を変更する」のいずれかです。このような2つのアクションの組み合わせを「アクションセット」といいます。アクションセットに含まれる2つのアクションは、そのどちらかだけを行うこともできます。
「鉄道網の改良」アクションでは、コストを支払うごとに、場のベースカード(初期配置の地図を構成するカード)を線路や駅のカード(まとめて『改良カード』と呼びます)に置き換えたり、既に配置されている改良カードをアップグレードしたりできます。コストを支払う限り、このアクションはひと手番で何回でも行うことができます。
「株券の購入」アクションでは、任意の会社の株券を、コストを支払うことで購入することができます。株券1枚の価格は、ゲームボード上に存在するその鉄道会社の駅数と同じです。
「配当の獲得」アクションは、手番プレイヤーが保有する株券の鉄道会社をひとつ選び、ゲームボード上にある2つの駅間で列車を運行させることで配当金を生み出します。
始点と終点となる2つの駅の距離は、場に公開されている購入済みの株券の枚数で決まります。また、始点と終点の駅の間に別の駅を(前述の距離ルールを遵守する限りにおいて)幾つでも経由することが可能です。多くの駅を通過すれば、払い出される配当も大きくなります。
列車を運行させるルートは、可能な限り配当が最大となるようなルートを選択しなければならず、そのために他の株主と相談することもできます。配当は新たな手札として配布され、株主プレイヤーがそれぞれの株券保有数に応じた枚数を獲得します。
「プレイ順の変更」アクションは、他のプレイヤーとのプレイ順を交換します。このゲームでは、このアクションを用いなければプレイ順が変わることがありません。
◆手札(流動資産)によるコストの支払い
手札は流動的な資産として扱われます。アクションでコストを支払うときには手札から支払います。手札の補充(=流動的な資産を増加させる)は、「配当の獲得」アクションで配当として得るしか方法はありません。
他の誰かの手番で「配当の獲得」アクションが選択され、ある鉄道会社が運用された場合、手番外であってもその鉄道会社の株主であれば、所有している株券の枚数に応じて手札にカードを補充できる可能性があります(なお、配当については例外的な手続きがあって、必ずしもそうならないケースがあります)。
◆12個の山札
「鉄道網の改良」と「株券の購入」のアクションは、山札から該当するカードを取ることで実施されます。
このとき、山札の上からではなく、任意の山札を選び、その中から自分の望むカードを自由に選ぶことができるのです。このゲームには「山札」が実に 12( ! ) もあって、ルール的に合法であれば、どの山札に中にあるどのカードでも選ぶことができます。
このゲームは、セットアップが終わったらランダムな要素がなくなり、プレイヤーの意思決定のみが場に影響を及ぼします。12 の山札はどれも表向きに置き、必要なタイミングでその中をすべて見ることができます。またコストとして手札から支払われるカードは、任意の山札の上へ表向きに重ねられていきます。
ただし、山札のカードが重ねられている順番を変えることはできません。プレイヤーが任意のカードを山札から選び出すときには、そのカードを山札から単に抜き取ります。そしてゲームが開始されたら、どの山札もシャッフルすることはありません。
◆株券と固定資産
一部の線路カードは株券カードとしても使えるようになっています。しかし、それはどちらかとしてしか扱うことができません。
ゲームボード上に配置されている線路カードに株券カードのシンボルがあっても、それは線路カードとして扱います。逆に誰かの株券となっているカードは、もはやこのゲーム中には線路カードになることはありません(株券を売却するルールはありません)。
株券の価値はプレイヤーの固定資産の大きさを決める主要な要素です。ある1枚の株券は、ゲームボード上に存在するその鉄道会社の色のついた駅数と同価の資産価値を持ちます。例:2つの駅を持つ鉄道会社の株券3枚は資産6の価値を持ちます。
ゲームボード上の駅カードの色は、そのカードをアップグレードすることで変わることがあります。駅が「上書き」されて色が変われば、それを保有する鉄道会社も変わり、該当する鉄道会社の株価は増減し、結果としてプレイヤーの資産も増減します。駅にはどの鉄道会社にも属さない中立的な色(国有鉄道?)もあって、単に株価と資産が下落するだけのこともあります。
◆戦術
すべての改良カード(線路カードと駅カード)は「ゲームボード上の線路」か「手札(流動資産)」のいずれかになる可能性があります。また前述のように、一部の線路カードは鉄道会社の「株券」ともなります。ある改良カードが、そのどれかとして扱われている間は、その他のどれにもなりません。
これを利用しますと、例えば他人に利用されたくない線路カードを株券として購入してしまうとか、塩漬けの流動資産として手札でずっと握りつぶすことで「ブロック」ができます。これは Express 01 の基本的な戦術のひとつであると言えます。
Express 01 は、新たな駅の建設やアップグレードの制限が緩く、そのために株価(株券の資産価値)の変動を安いコストで簡単に行えます。そのため、ゲーム中に資産価値の大幅な増減が頻繁に発生します。何も対策をしなければ混沌とした濁流に翻弄されるだけから、そうならないための手段のひとつとして、前述のブロック戦術が有効に働くでしょう。
ブロックしたいカードが株券であれば、それを「株券の購入」アクションで購入するだけで目的を完遂できます。株券となる線路カードは、任意の山札の中から自由に選んで購入することができるからです。もっとも、株券カードは線路カードとして重要な地点を構成するようにはなっておらず、また枚数にも限りがあります。そして株券は有償であり、時に高価です(その鉄道会社の駅数と同価)。
ブロック目的のカードが株券ではなく、その他の改良カードで、それがどこかの山札にまだあれば、「鉄道網の改良」アクションでそれを選びとって、鉄道網上の無関係な場所へ配置しておくのも一時的には有効です。もし、このカードを他のプレイヤーがアップグレードして山札の上へ戻ったのであれば、次の自分の手番で「配当の獲得」を行って目的のカードを手札に入れてしまえば良いのです。
もっとも手番が回ってくる前に、他のプレイヤーによってその山札の上に別のカードがかぶせられて、計画が頓挫するかもしれません。このように失敗するリスクはゼロではありませんが、恐らくこれがブロック戦術を実現する最も現実的な方法ではないでしょうか。
あるいは、鉄道網を拡張する際の制限(※)を利用して、どうやってもゲームボード上にブロックしたいカードを配置できないパターンを作り出せるかもしれません。このパズル的な戦術は、150枚を越える線路カード内容を熟知していなければならず、またそうであったとしても難易度は極めて高いと思われます。
※線路カードをゲームボード上に配置する際には、既存の鉄道網を維持しなければならず、またゲームボードの端に対してオープンになる線路は引けません。
◆キャッシュ・フローの重要性
株券の買い方は大きく2つの方針が考えられます。すなわす、大きな収益の独占を見込んでひとつの会社の株券にのみ集中して買うか、あるいは多くの鉄道会社の株を少しずつ買い集めるかです。
株券は固定資産としてだけではなく、「配当金を獲得」アクションにおいて、運行するルートの最大距離を決める要因でもあります。ある鉄道会社について運行ルートの最大距離は、「配当金を獲得」アクションを選択した手番プレイヤーだけではなく、他の株主が持つ株券の枚数も含めた総数です。
株主が一人だけの鉄道会社を運行すれば利益を独占できますが、長い運行ルートを構築して多大な収益を得るまでには時間と多額の投資が必要です。一方、複数のプレイヤーによる鉄道経営は、より長い運行ルートを安価にすばやく構築することで高い収益を獲得できますが、それは株主ごとに分配されます。
どの方針を選択するにせよ、手札が枯渇しないよう気をつけなければなりません。有償アクションの実施は、配当によって得られる収入にのみ依存しているためです。
◆デザインコンセプトと問題点
運要素を取り除いた鉄道ゲームといえば「18xx」シリーズが思い浮かびます。鉄道網のアップグレードや鉄道会社の運用と株の仕手戦等々、Express 01 がこの 18xx シリーズに強く影響を受けていることは一目瞭然です。
その上で、流動的な資産を手札で表現したり、株価を駅数と同じにしたり、1枚のカードに複数の機能を持たせる等々から、18xx においてリアルであっても煩雑な要素をできるだけ抽象化し、よりプレイアブルなゲームにしようとしたデザイナーの意図がくみ取れます。
その意欲的な試みは大変に意義のあることです。しかしその構想の実装は、洗練されているとはとても言えない点が幾つかありました。
共有の山札が 12 もあるのは、それぞれのデッキコントロールをプレイヤー同士の争点として戦略の要に組み込み、また目的のカードを探し出しやすくするための工夫としては理解できます。しかし前者は、山札ごとのカード構成をある程度は事前に把握していないと活用できませんし、後者はカード上のシンボルがわかりにくくて結局は十分な効果が得られてはいないように思えました。
ルールブックには(原文から)不明確な点が多くあり、それを解決するために BGG のお世話になりました。とはいえ、そこにはどうやら公式な裁定はなく、知り得た情報はあくまでもアンオフィシャルです。ルールブックから得られる(不完全な)情報が現在のところ唯一の公式情報のようです。
ついでにいいますと、僕の購入した Express 01 に添付されていたショップ訳がちょっとひどい出来ばえで、これが正しいルールの理解に対する障害にもなりました。このゲーム会では HJ 訳を見せてもらったのですが、こちらはざっと眺めただけでも訳文や編集がしっかりしているように見えました。
◆セッションと初回プレイ後の評価
幾つもの問題点を書いてしまいましたが、Express 01 が評価に値しない駄作であると僕は言いたいわけではありません。それどころか、初めてプレイした直後も、そしてこれを書いている今も、このゲームの印象は決して悪くはないのです。
今回のセッションでは、序盤〜中盤までは複数山札サーチという独特のシステムを把握するのが精一杯だったこともあり、勝ち筋を考えるまでとても気が回りませんでした。ともかくも、流動資産のキャッシュ・フローが重要だとまず仮定した上で、中盤までは多数の会社の株券を少しずつ購入し、どのような展開になっても運転資金が枯渇しないように気を使いました。
この方針では、流動資産は主に株券の購入に費やされるため、ゲームボードで改良カードを配置することは必要最小限に抑えるようにし、また配当も他の株主にやってもらうようにしました。
中盤過ぎになってようやくゲームの要点がわかり始めますと、それまでの手探り状態から一転してセッションが熱く盛り上がり始めました。特に、ここまで何度も書いた「カードを握りつぶす(ブロック)」戦術の効果がわかりやすく現れる終盤は大変に面白かったです。
コストさえ支払い続ければ「鉄道網の改良」アクションによって改良カードの配置やアップグレードを一手番で何度でも行えるため、流動資産が増加する終盤になるほど、鉄道会社が保有する駅数の変動幅が大きくなり、株券の資産価値もそれに伴って劇的に変わります。
ですから、終了条件が満たされていた最終ラウンドでは、後手番のプレイヤーの方が場の操作をしやすくなるので優位となります(もちろん、それを行うための流動資産を持っていることが前提です)。
それらを踏まえた上で、キーとなる駅カードの色を変更させられないよう、ゲームが終わるまでにそれを手札にできるだけ多く抱えておくことが勝ち切るために重要な戦術となるのです。その駆け引きの妙を終盤だけでも味わえたのは幸運でした。
初めてプレイした後の感想として、鉄道ゲームとしては水準を十分に超えた作品だと感じました。それだけに、カードの枚数もシンボルデザインも整理しきれていないためプレイアブルではないことと、ルールに不明確な点がいくつもあったという、入り口の狭さをとても残念に思います。
最後に今回のセッションの結果について。ゲーム終了時、ふうかさんと僕とが資金総額で同額となり、株券の枚数が多かった僕が勝利となりました。ふうかさんは序盤から特定の鉄道会社に資金を集中投下し、ゲームボードでは改良を積極的に行うという、僕とは正反対の積極的なアクションを主体にした戦略で利潤を追求していました。
異なる2つの戦略を取ったプレイヤーたちが、そのどちらも資産総額でトップだったということです。これはとても興味深い結果だとは思いませんか。もちろんただの偶然かもしれませんけれど、ひょっとしてこれは Express 01 が優れた戦略ゲームであることの傍証くらいにはなるかもしれませんよ?(まだ1回しかプレイしていないので、この主張は控えめにしておきましょう)。
http://www.boardgamegeek.com/boardgame/127798/express-01
※レポートは後日に続きます。次のレポート:http://moon.livedoor.biz/archives/52310776.html
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