レイメイ期-2
Photo by Alf Melin

十九世紀に入ったとき、ヨーロッパは、戦乱の中にあったので、ウォーゲーミングのパズルのかけらは、大陸中にまき散らされた。
「無血戦争」 著:ピーター・P・パーラ 訳:井川宏 ホビージャパン刊
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海外において、立体のコマや地形を用いた「ミニチュアウォーゲーム」は、古くからさまざまな形でプレイされ、培われてきた長い伝統があります。日本でも模型という娯楽は戦前からあって愛好者も多かったのですが、それを使ったウォーゲームは全く注目されることはなかったようです。

[ミニチュアゲーム]
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%83%81%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0

◆キーパーソン
この「ウォーゲーム(あるいは"ウォー・ゲーム")」を、国内メディアで初めて紹介したのは、かつて新宿でミリタリーフィギュアや軍事関係の書籍を販売するショップを経営なさっていた井出隆弥氏という方です。

◆1971年8月号
井出隆弥氏が月刊ホビージャパン1971年8月号に寄稿した「モデル・ソルジャーの世界」という記事では、スケールモデルそのものを作り上げることが主流だった当時のミリタリーモデルの世界へ、新たに情景模型(ジオラマ/HJ誌上の表記は"ディオラマ")の愉しみを提唱するという趣旨でした。

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連載初回記事では、54mmスケール(1/32)モデルの紹介と、そのコレクションが海外で盛んに行われているという概要のみが書かれています。この時点ではゲームの話は出てきません。

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◆1971年9月号
翌9月号では、大量のスケールモデルを使用したジオラマの作例が、印象的な写真と共に掲載され、その制作方法が具体的に書かれるようになりました。

このように、執筆者自身がジオラマ制作を行って多数の写真を掲載し、作例に使用したスケールモデルの紹介や、あるいはそれらの歴史的な考証を行うというスタイルは本連載の特色となり、この後もずっとこの方針が堅持されています。

◆1971年11月号
連載4回目となる1971年11月号では、ジオラマの主要な構成要素のひとつであるミリタリーフィギュア、つまり兵士の人物模型に焦点を絞っての解説となります。この号の記事において、「30ミリ ウォーゲームスケール」という、ミニチュアウォーゲーム専用フィギュアの概要が、十数行ほどさらりと紹介されました。

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これは、ウォーゲーム関連の情報が国内メディアに取り上げられた最初期の記録ではないかと思われます。もっともこの時点では、ウォーゲームがどのようなものであるのかまでは詳しく触れられてはいません。

◆1971年12月号 ※更新: 2014/12/27追加
本号では、海外でどのような歴史的経緯でウォーゲームは成立してきたかということと、(掲載当時の)最新事情が、多くの写真付きで紹介されています。記事にはH.G.ウェルズの「リトル・ウォーズ」の紹介もあります。

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この記事に掲載されている写真は、主にイギリスの模型雑誌から引用したものでしょう。井出氏が後の連載で作り上げるオリジナルゲームは、これらの写真に写っているような多数のミリタリーフィギュアが立体的なジオラマ上でひしめいている様子から、強くインスピレーションを受けて制作されたものと思われます。

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◆1972年1〜3月号
翌1972年1月号では、海外でミニチュアウォーゲームによく使用される54mmスケールモデルの本格的な紹介が行われ、その次の号から「ウォーゲーム」そのものを紹介すると予告されます。

ですが実際には、「キット製作に意外に手間どり、翻訳に不備の点も多い」との理由で、2月号の記事はジオラマの作例や制作方法の紹介だけとなっています。

続く3月号の記事では「前哨戦」と称し、ウォーゲームを強く意識した戦場ジオラマを作例として挙げ、その歴史的背景と共に解説されました。しかしここでもまだゲーム要素の紹介はごく概念的な事柄に留まっており、具体的な情報はほとんど書かれていません。

◆1972年4月号
そして1972年4月号にて、ウォーゲームの「ルール」についての解説がようやく始まります。題して「ミニチュア模型によるウォー・ゲーム」。これは、海外の複雑なミニチュアウォーゲームを下敷きにしつつも、ウォーゲームに初めて触れる当時の国内モデラーでも手軽に遊べるようにデザインされた井出隆弥氏のオリジナルゲームでした。

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なおこの号の記事から「無断複製・転載を禁ず」という一文が冒頭に掲げられるようになり、この「ルール」が執筆者の創作物であることが強調されるようにもなっています。

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◆未踏のウォーゲームデザイン
この連載は同年10月号まで続き、1回の休載を挟んで計6本の記事となっています。

最近になって、この連載を改めて読む機会を得たのですが、どことなく釈然としない印象を受けました。この連載時には、既にベテランモデラーとしても、そして戦史家としても実績のあった井出隆弥氏でしたが、ウォーゲームにはそれほど慣れ親しんではいなかったと思われる内容だったからです。

ジオラマの愉しみ方のひとつとして連載記事に取り上げたウォーゲームが予想外の人気を博したことに戸惑いを感じつつも、それでも何とか読者の要望に応えようと尽力し、それがどこかずれてしまった… そんな感じです。ただ私にとってそのことは、掲載されているルールそのものよりかえって興味深く思えました。

そこで次のエントリー(第三夜)では、このオリジナルウォーゲームがどのような「ルール」であったか、またどのようにして作り上げられていったかを、簡単にレビューを行う形で連載順に紹介し、そのことによって「Board Game Design Advent Calendar 2014」第24日目の記事としたいと思います。どうか明日24日もよろしくお願いいたします。

(第二夜 了 / 第三夜へ続きます)