Wars of Religion (ユグノー戦争) / 武蔵小杉ゲーム会 (11/19)

このエントリーは、War-Gamers Advent Calendar 2022 の24日目として投稿しました。

11/19(土)に、武蔵小杉にて開かれたゲーム会にお誘いいただきましたので参加してきました。参加者は、一味さん宇賀愛一郎さんと私の3人です。コロナ禍ですっかり対面ゲームとは縁遠い生活を余儀なくされてきましたが、4回目のワクチン接種するなどして家族の了承も得られたこともあり、久しぶりのゲーム会となりました。

Wars of Religion, France 1562-1598 / Fellowship of Simulations
ユグノー戦争テーマの3人ウォーゲーム。


Wars of Religionプレイ中撮影

「Wars of Religion」は、16世紀のフランス全域で、長期間にわたり断続的に続いたカトリックとカルヴァン派(改革派)プロテスタント(通称"ユグノー")による内戦「ユグノー戦争」を題材にしたウォーゲームです。

ユグノー戦争は表面的には宗教戦争ですが、政治的な背景をも色濃く帯びています。当時のフランス貴族は、フランソワ1世の時代から始まる中央集権的な君主制の強化に直面しており、その特権と行動の自由を求めて争っていました。



そのため本作には、軍の管理や都市の支配など軍事的な戦略だけでなく、宮廷での政治的活動や隣国との外交などの要素も組み込まれています。本作は、ユグノー戦争の経緯を軍事的側面からだけではなく、当時の王族や貴族たちが社会的に置かれた不安定な立場から引き起こされる脅威や苦悩を、比較的簡潔なシステムで包括的に表現した内容になっています。

ウォーゲームとしてはコンパクトな分量のルールで難易度も低めなのですが、不明瞭な点が多々あり、加えて販売店が添付していたルール日本語訳にも少なからず問題がありました(ルール日本語訳はその後改訂され、全部は確認しておりませんが、当初の問題はその大半が解消しているはずです)。

このような事情があったため、事前にBoardGameGeekでデザイナーが訂正や明確化した情報をまとめ、ルール日本語訳も独自に修正した情報を元に作ったサマリーシートを大量に自作して当日に臨みました。


Wars of Religion自作サマリーシート

✟ 勢力と陣営

「Wars of Religion」でプレイヤーは「王党派」「カトリック同盟(リーグ)」「ユグノー」のいずれかを担当し、宗教改革を巡る宗教的、あるいは政治的な衝突に立ち向かいます。これらの勢力は非対称で、個々に特色があり、固有の事情を抱えています。

「王党派」はゲーム内で強力な権限を持ち、なおかつ場の状況に関わらず「徴税」によって多数の軍隊を動員できます。「カトリック同盟(リーグ)」は、自力で兵の動員は行えませんが、そこそこ安定した財力と、軍事大国スペインに太いパイプを持っています。「ユグノー」は、盤上で支配する都市の数が動員兵力と軍費に直結し、どの階級でも優れた軍事リーダーに恵まれています。

このゲームがこれらの3勢力でがっつり三つ巴戦なのかといえば、実はそうでもありません。外見の対立構造は「陣営(Side)」で表現されています。

まず「リーグ」と「ユグノー」は常に対立しており、最後まで互いに敵陣営となる関係にあります。残る「王党派」は、ゲーム開始からしばらくの間は「リーグ」陣営に属していますが、最後のターンには「ユグノー」陣営に移ります。

つまり本作は、常に「2勢力の陣営 vs. 1勢力の陣営」で争う構図となります。

前述のように、まず王党派はリーグ陣営となり、その間はリーグと同盟関係にあります。一般的なマルチプレイヤーゲームと異なり、陣営内の同盟関係はルールによって強く拘束されています。


陣営概念図

王党派とリーグの同盟は、それら勢力を担当するプレイヤーの意思では変わりません。別途ルールに定義された「事件(イベント)」などのトリガーが引かれることで、王党派はユグノー陣営に移ります(そうするとリーグは単独陣営になります)。これもプレイヤーの意思とは無関係に、そのようになります。

なお、勝利は勢力に対して与えられます。陣営ではありません。本作は最終的に「どちらかが」ではなく「誰が」勝つかを決めるゲームになっています。

✟ 2層構造

本作のもうひとつの特徴として、「宮廷フェイズ」と「戦争フェイズ」という、全く構造の異なるシステムを合わせ持っている点があります。

大まかに言えば、「宮廷フェイズ」で戦力や戦費(軍資金)の調達するなどして来るべき戦争に備え、「戦争フェイズ」で実際に軍事行動を実施する流れとなります。

✟ 宮廷フェイズ概要

宮廷フェイズでは「人物カード」を使ったカードプレイが中心です。人物カードには基本的な能力として「戦闘値」「陰謀値」が割り振られ、さらに特殊能力を持つ者がいます。


人物カード説明

宮廷フェイズで行うアクションで、隣国から兵士や軍費の調達や、他勢力から都市の支配を奪い去る試みなどが行えます。宮廷のアクションは他にもいくつかありますが、いずれもダイスの判定を伴うため、必ずしも成功するとは限りません。なお、人物カードの「戦闘値」「陰謀値」は、ダイス判定の修整値となっています。

余談ですが、人物カードには女性が含まれていて、その中には、女性ならではの特殊能力を持つ者さえいます。ウォーゲームにしては珍しく女性が活躍する機会が多いというのも、本作の特徴のひとつと言えるでしょう。

✟ 戦争フェイズ概要

戦争フェイズでは、敵軍隊の撃退と敵都市の支配奪取を目的に、盤上で軍隊の行軍と戦闘(野戦と攻城戦)を行います。

各勢力は軍隊カウンターを5枚ずつ持っています。したがって本作は、最大で15枚の軍隊カウンターしか盤上に現れません。各軍隊カウンターが保有する兵力を「兵士点」と呼び、盤外のプレイヤーエイド上で管理します。1枚の軍隊カウンターは最大9点の兵士点を持ちます。


軍隊カウンターと兵士点の管理

戦争ラウンドに先立ち、1枚の軍隊カウンターに1人の軍事リーダーを割り当てます。軍事リーダーには全て「ランク」(軍の階級と思われます)が設定されています。より多数の兵士点を持つ軍隊カウンターには、より高いランクの軍事リーダーを割り当てなければなりません。


軍事リーダーの割り当て

準備が整ったら戦闘ラウンドを開始します。
手番となった陣営(活動陣営)は、まず任意のひとつの州を「活性化」します。


州の活性化

活動陣営は、活性化した州へ移動可能な軍隊を行軍させます(軍隊の活性化)。通常は高いランクの軍事リーダーが率いる軍隊から行軍するでしょう。

というのも、低いランクの軍事リーダーが率いる軍隊を先に行軍させてしまうと、ルールにより、それよりも高いランクの軍事リーダーは、この手番で行軍できなくなってしまうからです。


軍隊の行軍

ある軍隊が行軍した後に、それよりも低いランク(※恐らくは同ランクでも可能)の軍事リーダーが率いる軍隊を随伴させて、活性化した州へ行軍できます。これも軍隊の活性化の一種です。

ただし、スタックルールにより、同じ州にいる同一勢力の軍隊は、より高いランクの軍事リーダーが率いる軍隊に統合されるので注意が必要です。


軍隊のスタック

軍隊の行軍と戦闘には軍資金が必要です。活性化した州への行軍が終了した時点で、その州にいる兵士点に応じたコスト(軍資金)を支払わなければなりません。

この軍資金は、戦争フェイズに先立って行われる宮廷フェイズで集めておく必要があります。十分な軍資金がなければ、能動的な軍事行動はできなくなります(迎撃や防御側として野戦に参戦することは可能です)。


軍資金の支払い

敵の軍隊に野戦で勝利したり、攻城戦(都市の支配を目的にした争奪戦)に成功したりなどすると、その勢力は「戦争点」を獲得します。この戦争ラウンドで得た戦争点は、勢力ごとに汎用トラック上で記録しておきます。

続いて、まだ行軍していない軍隊があり、軍資金を支払えるのであれば、別の州を活性化してそこに行軍したり、戦闘したりできます。ひとつの州は1回の手番で1回しか活性化できませんし、ひとつの軍隊は1回の手番で1回しか活性化できません。

活動陣営が活動を終えることにしたら手番は終了します。今度は敵対陣営が活動陣営となり、同様に活動します。これを交互にくり返します。新しい手番では、前の手番で活性化した州や軍隊を再度活性化できます(軍資金があれば)。

こうして、両陣営とも全ての活動を終了させたら戦争ラウンドは終了します。

✟ ターンごとに軍隊は"リセット"される

戦争ラウンド終了後、最も高い戦争点を得た勢力が、そのターンの「戦争」に勝利します。戦争に勝利した勢力には条約点(勝利条件に関わるスコア)が与えられます。また、リーグやユグノーが勝利すると、他の勢力から1〜2の都市の支配を奪うボーナスが付帯することがあります。

そしてこの後で、盤上の軍隊カウンターや軍事リーダーを除去し、戦争点や軍資金もゼロになります。ただし都市の支配は変わらず、ターンを越えて引き継がれます。

このように、ターンが更新されるたびに、都市の支配を除いた盤上のカウンター、軍資金、戦争点は全てリセットされます。なお、このゲームは最長6ターンです(単純計算で1ターン=6年)。

人物(人物カードや軍事リーダー)には活動期間(登場ターンと退場ターン)が設定されており、各ターン開始時に新しく登場したり、寿命を迎えて自然死(ゲームから除去)したりします。

✟ 当日のプレイと反省

本作にはキャンペーンゲームと短縮シナリオが用意されていますが、この日はキャンペーンゲーム「ユグノー戦争」をプレイしました。私が担当したのはリーグ(カトリック勢力)でした。


Wars of Religionプレイ中

リーグと王党派は、しばらくの間(というか最終ターンの前までは)同盟関係にあります。このゲームでの「同盟関係」とは、単に軍隊や軍資金を共有するだけではなく、王党派に強力な権限を与えることを意味します。というのも、ルールによって、王党派と同盟関係にある勢力(この場合はリーグ)が攻城戦で都市を落としても、それは王党派の支配都市となるのです。

当たり前ですが、何も対策を講じなければ、これではリーグの都市は一生増えません。しかし私は、ルールに記述された「同盟関係」「協力勢力」という言葉に囚われてしまって、そのために戦争フェイズに王党派の好きなようにさせてしまったのはうかつでした。ただの言い訳ですが、この日はルールの正しい運用に神経を使い、勝つための方策を怠りすぎたように思います。

後から考えれば、例えばリーグの軍事リーダーが攻め落とした(そしてルールにより王党派支配となった)都市ならば、後から宮廷フェイズで取り返す試みをするべきでした。実際、宮廷フェイズにはちゃんと「同盟者の都市を自勢力にコンバートする」アクションが用意されているのですから、それを堂々と行って、同盟内であっても緊張感を持ってプレッシャーをかけ続けなければならなかったと反省しています。

もっとも、これをやり過ぎると、リーグにとって恒久的な敵対勢力であるユグノーに利することにもなります。いずれにせよ、特に初見ではリーグの立ち回りは非常に難しいと思いました。正直に言えば、今でもこの勢力の勝ち筋がよく見えていません。

ともあれ、この日は一味さん率いるユグノーの勝利となりました。プレイ時間はインストを除けば6時間と少しで、キャンペーンゲームがルールに記載されている通りの時間でちゃんと終わったのは素晴らしいことです。

✟ 感想と評価

購入した後に気がついたことですが、本作はクラウドファンドで資金を集めて制作されたプロダクトでした。そのため、やや荒削りながらも、独自のアイデアが散見されます。

複雑な背景を持つユグノー戦争の全容を、シンプルなルールと少ないコンポーネントでまとめ上げている点には感心しました。なにより、この時代をテーマにしたウォーゲームは希少で、それだけでも十分な価値があると思います(円安などの影響でけっこうなお値段でしたけれども、それでも私が本作を購入した理由はこれです)。

それだけに、ルールライティングの雑さや、コンポーネントのフォントまわりの不出来(文字が小さい、読みづらい字形、ムダに多くの書体を使いすぎ等々)が気になりました。カードの種類がいくつもあって、それらをゲーム中に管理することが煩雑にも感じました。

気がかりな点はあるにせよ、総じて私はこの作品が気に入っています。本作には1人用のソロモードが用意されていますので、ルールを忘れないうちにプレイしたいと思っております。

✟ ルール疑問点と明確化まとめ

キャンペーンシナリオをプレイした後、改めて本作ルールの疑問点と、ルールブックだけでは不明瞭だった点の明確化情報を、Noteで記事にまとめて書きました。よろしければ以下からご覧ください。


✟ 終わりに

史実を元にしたウォーゲームは通り過ぎることがありません。プレイの後には、豊かな史的知識が幾重にも積み重なり、当時の人々が生きた時代を超え記憶され続けてきた無数の物語が、絶え間なく降り注いで来るかのような思いに駆られます。

ゲームが投影する歴史の一端に没入し、この疑似体験に身を委ねることは、時に生涯にわたって引き継がれる探究心の引き金ともなります。

私がこの趣味を何十年も続けている理由のひとつがまさにこれであり、行き着くところ、私にとって本作の魅力もこのことに尽きていると言えます(了)。


Wars of Religionボックス

タイトル:Wars of Religion, France 1562-1598
邦題:ユグノー戦争
メーカー:Fellowship of Simulations社
発売年:2022年
プレイ時間:1〜6時間
人数:1〜3人 ※基本的には3人 / ソロプレイルールと2人ルールあり
https://boardgamegeek.com/boardgame/358604/wars-religion-france-1562-1598