moon Gamer - ボードゲームブログ

テーブルゲーム(ボードゲームやカードゲーム等々)と、その周辺の話題を中心にした個人ブログです。

タグ:船と香辛料会

31日(土)は、千歳烏山ゲーム倉庫にて「Star Trader / SPI」をプレイするゲーム会を開きました。今回は、前回参加したつなきさん、taroさんに加え、カエルさんをお迎えしての計4人のプレイとなりました。

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この先日に何となく思いついて、商品価格相場の変動判定を自動的に行う処理を、Excel と VBA で衝動的に作りました。このゲームは特に序盤において、毎ターン18種類ある商品の相場変動をひとつひとつダイスを使って判定する必要があり、この作業を少しでも軽減するために用意したものです。

急いで作ったので画面は素っ気ないものですけれども機能的には十分で、考えていたよりは役に立ったかなぁ、と。ただ、すべてを自動判定してしまうとさすがに味気ないので、入札が行われた商品は手作業で(つまり実際にダイスを振って)判定を行いました。

またついでに、船体設計で、自動的に価格の計算と乗組員やポッド上限の判定を行うシートも作りました。まぁ船体設計は慣れるとそんなに面倒ではないでの手作業でも十分なのですけれども、少なくとも検算には役立ちました。

とまぁ、前日の夜遅くまでこんなことをやっていたせいかどうかはわかりませんが、肝心の当日になって、どういうわけだか僕は、ゲーム開始時刻を1時間遅いお昼の12時と勘違いしていたという大まぬけな失策をかましてしまいました(実際は午前11時開始)。大慌てで連絡を付けて何とか1時間遅れで開始することは出来たものの、他のお三方には本当にご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ないです。

朝から雨模様の1日。このところ週末になると雨が降ります。


Star Trader / SPI moon Gamer

波瀾万丈。そう、それでも商人は、星の向こうにありえないほど大きな夢を見るんだ。

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前回のプレイから2ヶ月ほどの期間を経て、めでたく第二回目の「船と香辛料」会が開かれました。プレイヤーは6つの恒星系を巡り、商機をつかみ取ってより大きな資産を築き上げることを目指します。「Star Trader」における経済活動は交易だけではなく、工場による大量生産や、さらに戦闘、裏社会まで網羅した巨大なシステムを持っており、プレイヤーはそこで活動する社会的な存在として一商人を演じ、そして想像力の限りをを尽くして競い合うのです。

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序盤の流れ:

今回は序盤からつなきさんが動きまして、最初のターンから3つの恒星系に工場+倉庫を建設しました。これにはいくつかの意味があって、例えば長期的に安定した商品供給源の確保、それに伴う商品の投機的な機会の増加などがあります。工場は売却時に時価を基準にして金額を決めるので、それ自体が投機的な施設でもあります。この動きに刺激されて僕とカエルさんも工場や倉庫を建てたのですが、taroさんはそうせず、別路線を歩みます。

当面の方針:

この時の僕の考えでは、倉庫を複数の恒星系に建設することで商品を購入する機会を増やすことと同時に、宇宙船は当面は旅客を中心にして確実に小銭を稼ぎ、相場のあんばいを見ながらタイミング良く商品の投機を行う、というわりとオーソドックスな方針で行くことに決めていました。資金をある程度増加させた後はエージェントを引き、その結果でその後の方針を決めるつもりでした。

相場低調:

ところが市況がよろしくありません。まず Sigma Draconis の香辛料相場が下がらなかったこと。ここはつなきさんが倉庫を建てており、毎ターン香辛料を買いを入れることで相場を持ち合いの状態にしてほぼ固定させていました。このため、Sigma Draconis で仕入れて Beta Hydri へ売るという定番ルートがまったくおいしくありません。

もうひとつはアイソトープの相場が全恒星系的に小甘く低調だったこと。アイソトープ市場のある恒星系の多くは宇宙港クラスが大きく、旅客運送業務との相性が良いのです。ところがアイソトープの需要元である Beta Hydri も Tau Ceti も相場が上がらないため、利益が期待出来ない(それどころか元本割れすら起こしそうな)状態でした。

それでも何もしないわけにはいかず、とりあえず名望を上げて副収入を得て、少しでも儲けが望めるのであれば小商いを続けて辛抱を重ね、チャンスを待つことにしました。長時間ゲームですから、良い時もあれば悪い時もあります。

イベントの嵐:

と、ここでひとつ事件が。なんと Gamma Leporis にて「内戦(イベント)」が勃発。たまたまそこにいたつなきさんと taroさんの宇宙船(と工場と倉庫)が50%という安値で軍に接収されてしまいました。2人ともビジネスが軌道に乗りかけていたこともあってこれはさすがに痛手だったようです。

が、2人ともプレイ経験者だったこともあって、ここで冷静に切り返しをしたのがさすがというか。つなきさんは短期ローンを組んで再起を図り、taroさんは客室ポッドを大量に積んだ船を建造・運用を重ね、これと名声による収入と合わせて相場に左右されない堅実な固定収入を得る方針を採りました。

ところが今回はイベントが容赦ありませんでした… このすぐ後に「疫病」が発生して、ハイパージャンプが1ターン禁止されることになってしまいました。大量の旅客を運んでいた taroさんは違約金の支払いを余儀なくされ、他のプレイヤーも商取引が行えず1回休みの憂き目に…。

こういう時は悪いことが重なるもので、さらにこの後、突然やってきた「異星人」に市場が動揺・混乱し、全商品の相場下落が起こりました。いや、これはかなり厳しかったです。今回はバッドイベントが多く発生し、全体的に波乱含みの展開でした。

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途中終了:

前回から2ヶ月も間が空いたので、全員がルールを思い出すのに時間がかかったのと、初見のカエルさんのために序盤はスローペースでスタート。最初の3ターンで3時間かかったのにはどうなるかと思いましたが、その後の3時間で10ターン目を終了するまで進みました。時間的なこともあって、今回はひとまずここで終了ということになりました。

この時点で資金的にも経営的にも余裕があったのはカエルさんで、旅客業が順調な taroさんも堅調、つばきさんはローンの返済を終えて再び再起を図ろうかというあたり。僕はとりあえず香辛料の大商いに成功して、やっと次につながる資金調達に成功したものの、カエルさんと taroさんと今から同じことをやっても追いつかないことは明白、という状況でした。

ですが、仮にこの後もゲームが続いていたのであれば、やりたいことが実はありました。そう「Star Trader」にはオモテだけではなくウラの手があるのです。そのあたりについては、また次回以降のゲームでお披露目することにしましょう。

次回に向けて:

次回はいよいよ「コーポレートシナリオ」をプレイする予定です。フリーシナリオは、全プレイヤーが同じ条件のセットアップで、終了条件も同じでした。コーポレートシナリオは、各プレイヤーが「会社」を担当し、それぞれが異なる条件でゲームを開始し、また同様に勝利条件も異なります。会社の中には特殊ルール(メリットだけとは限らない)を持つものがいくつかあります。

コーポレートシナリオは、「Star Trader」をよりディープに、そしてワイドに楽しむための仕掛けです。ある意味、フリーシナリオはコーポレートシナリオを楽しむための練習といってもよいくらいではないかとさえ思っています。今からプレイするのが心の底から楽しみです。

http://www.boardgamegeek.com/game/3534


レポートは以上です。

それにしてもなんという面白いゲームなんでしょうか。僕の拙いレポートではうまく伝わっていないのがとても残念ですけれども、この日の「Star Trader」は、筆舌に尽くしがたいほど充実した楽しいセッションでした。次回開催時には、またどうぞよろしくお願いいたします>参加者各位 moon Gamer


追記:(08/06/03)
そういえばこの後に2ゲームやったのでレポート追加。

Wie verhext! (魔法にかかったみたい) / Alea moon Gamer

つなきさんのリクエストでエントリー。

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序盤に苦戦するものの、このゲームは後半にまくることが十分可能。なので開き直って大胆なカード選択をしたことと、中盤過ぎからは「袋仕立師」「物乞い」の赤カードを警戒したこと(前回、前々回とこれで負けてるので)、そして終盤に「魔女のリーダー」によって効率的に得点を入れられたことなどがあって勝ちました。このゲームは初勝利です。
http://www.boardgamegeek.com/game/34084


三角貿易 / CORE HOUSE moon Gamer

先日購入したのでエントリー。

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交易というより、商品相場の操作が楽しいゲーム。よくあるゲームに見えて実は独特のバランス感覚が不思議な味を出している作品です。本当に30分もあれば1ゲーム終わるくらいのコンパクトさで、これだけの充足感を得られるのは素晴らしい。結果は今回も残念ながら2位に終わりました。
mo-i(あっとまーく)jcom.home.ne.jp / CORE HOUSE 一瀬様


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moon Gamer>「あの商品をあの町に運べばどのくらいの利益が出るだろうか、とか、あの商品がこれだけあるとあの地方ではかなりだぶついて値が下がっているのではないか、など、次から次へと、色々な考えが頭の中を駆け巡っていく。
駆け出しの頃はほとんどの商品について高いのか安いのかわからずただただ市場を右往左往していたのに、今では色々なことがすぐにわかる。
網の目のように張り巡らされた商品の相関図を完全に把握した時、商人は錬金術師になる。」

~「狼と香辛料」第3巻P59より引用~

これは商人に限った話ではありませんが、よほどの才能と運に恵まれでもしない限り、人はどのような職業に就いたとしても最初はうまく立ちゆかないものです。「狼と香辛料」の主人公ロレンスにも苦労した下積み時代があったようで、時々そのようなエピソードが断片的に回想として書かれることがあります。

前回の Ep.2 において、僕は「Star Trader / SPI」のフリーシナリオは、新参商人のロールプレイであると書きました。もちろん「Star Trader」は競技性の高いボードゲームではありますが、実は版元である SPI 社が当時発売していたTRPG「Universe」にも流用可能なようにもデザインされています。ボードゲームとしてはルールは多いように見えますが、TRPGとしてみれば普通のボリュームではないかと思います。

何より「Star Trader」のルールは、この世界に生きる商人たちの目から見た多くの理が定義されているだけであって、そこでどのように生きるかはプレイヤーの判断と行動に委ねられている点が素晴らしいのです。新参者である商人が、この地でどうやって成り上がれるか、そのサクセスストーリーの主人公にでもなった気持ちでプレイすることこそ、「Star Trader」を心の底から楽しむ秘訣であると言えるでしょう。

このエントリーでは、これら成功への道を徐々にステップアップしていく様子を演出する仕掛けとして、商人の経験と成長などを表現している多くのルールについて解説しましょう。


Star Trader / SPI moon Gamer

多くの道があり、そして多くのドラマがある。

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マーケットポジション(市場職能序列)

>「行商人が初めて訪れる商会に物を売る時、最も困るのは余所者(よそもの)ということで安く買い叩かれることだ。ポロソンやパッツィオ程度ではそういうことも少ないのだが、リュビンハイゲンほど大きくなり、町の商会がさまざまな召還や組合と密接な取引関係にあるところではそういうことが多々ある。」(『狼と香辛料』第2巻P160より)

「Star Trader」の商人は市場で取引を試み、それを成功させることで自らの経験を積み上げていきます。きっとその過程でさまざまなノウハウが生み出され、その市場に不慣れな他のプレイヤーよりも有利に取引を進める能力は身についていくのでしょう。しかしその市場の取引にどれだけ慣れていたとしても、他の地にある市場では勝手が違い、その経験が十分に生かされないかもしれません。

このような状況を簡潔に表現するルールが「マーケットポジション」です。ある恒星系において、特定の商品の取引を6個以上行った場合、そのプレイヤーの「マーケットポジション」のランクが上昇する可能性があります。

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より上のポジションへの昇格を成し遂げれば、ダイスによる不安定な市場との取引を確実な交易機会に変貌させる強力なオプションを行使ことが出来るようになります。


コネクション

>「誰も商売の危険や事故から身を守ってくれない世界なのだ。騎士達が鎧兜で身を固めるように、商人たちは人同士のつながりで身の安全を守る。」(『狼と香辛料』第2巻P152より)
>「異国の地で商売を成功させるには、とにかく強力な耳を持つことだ。」(『狼と香辛料』第1巻P177より)

商いに予期せぬアクシデントは付き物です。これから突発的に発生するであろうさまざまな事件を察知したり、危険と背中合わせの大きな利益をもたらす商機の成算など、商人にとって正確な情報収集能力は必要不可欠な素養です。「Star Trader」ではこれを「コネクション」というルールで再現しています。

コネクションには「政治」「ビジネス」「犯罪」の3種があり、個別に数値管理されます。つまりそれらの方面に対して詳しい情報を持っているとか、あるいは人脈が広さなどを抽象的に表現しています。

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ゲームにおいてこれらのコネクションが頻繁に使われるケースは「ニュースチット」の調査でしょう。

ニュースフェイズにおいて、ターントラックにはニュースチットが裏返しで置かれます。これは現在のターンより先のターンに発生するイベントや機会を表すチットです。裏返しに置かれるので、具体的に何が発生するかはわかりませんが、何かが起こることだけは誰でもわかります。

わずかなコストの他に、そのプレイヤーが必要なコネクションを保有していれば、このニュースチットを事前に「調査」することが出来ます。より重大なニュースを知るには、より大きなコネクションが必要であるのは言うまでもありません。多くの情報を予め知ることによって、その恩恵を受けることも、余計な災難に巻き込まれないようにすることも出来るわけです。


名望 -Reputation-

>「商人は信用が命だ。信用をなくせばもうどこからも救いの手は差し伸べられない。」(『狼と香辛料』第2巻P210より)

「Star Trader」の舞台となる世界は、それ自体がひとつの社会であり、プレイヤーはそこで生活をする行商人のひとりとして扱われます。そこは成熟した社会であり、当然のように法律が存在し、また人々の目もあります。正当な貿易を続けることで社会的な信用が増大する一方、無法な振る舞いを繰り返せば犯罪者として裁かれるかもしれません。このゲームではこれを「名望」というパラメータによって表現されています。

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マーケットポジションの上昇や、政治・ビジネスコネクションの上昇によって名望も上昇します。しかし犯罪コネクションの上昇は名望の下落を招きます。またそれを望まない相手に戦闘を仕掛けたり、他人の宇宙船などの破壊工作(サボタージュ)を試みたりすると、その結果如何に関わらず、名望は著しく下がる可能性があります。

名望が一定レベル以上になると、毎ターンボーナス資金が得られます。しかし名望が極端に低いと治安当局から目を付けられて査察を受けやすくなり、商人としての行動に大きな制約が科せられます。そして名望がゼロになるとゲームから脱落してしまうことになります。


「24世紀の世界で生業を持つ市民であること」を体験することこそが、「Star Trader」が実現しようとしている理念のひとつです。一見すると広大過ぎるように見えるルールは、プレイヤーのさまざまな経済活動の選択肢を増やしているだけではなく、未来の基礎的な社会基盤を描写することで、バックボーンとなる背景世界のイメージを生き生きと浮かび上がらせることにも成功しています。しかもそれは決して教条的なだけではなく、密輸や暴力行為などの犯罪的な生き方も許容する奥行きの深さを兼ね備えている周到さです。

まだ説明していないルールとして、商品の生産施設である「工場」(それ自体が投機対象)や、その保管場所である「倉庫」(これを利用して入札可能)、特殊能力を持つ「エージェント」(強烈なアクセント)、そして「Star Trader」を他の交易ゲームと一線を画す要素である「サボタージュ」「戦闘」(最後の手段として直接攻撃もアリ)など、それぞれ詳細にレビューしたいところなのですが、それはまた次回プレイのレポート時の楽しみに取っておくことにしましょう。


ところで3/29(土)のレポートも簡単に。序盤につなきさんと入札でバッティングした影響で、交易で利益を出したのがやっと5ターン目くらいでしたか。しかし転売で儲けようと Tau Ceti に建てたアイソトープ工場は、相場が最後まで原価あたりで止まってしまって今ひとつの出来。ただ、ここで生産されたアイソトープは Beta Hydri で相場が上昇して高く売れたので、この間の航路を乗客を運びながら確実に利益を出して行きました。

この利益を2隻目の宇宙船建造に投資し、さらに Sigma Dracnis ⇔ Beta Hydri 間の香辛料転売ルートも利用するなどして利幅を拡大させました。この後、イベント「General War」の余波で、船体+ポッドを220%の高利で売却に成功したり、機会チット Exploration Expedition(探検隊)の派遣に失敗(宇宙船全損…)したりと出入りの激しい展開に。moon Gamer

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しかしエージェント Crip をうまく雇用できたことで、Sigma Dracnis から安く大量に香辛料を調達し、さらにそこに建設した香辛料工場も供給源として、Beta Hydri や Epsilon Eridani などの需要市場に転売するルートを確立し、大商いをいくつか成立させることが出来ました。

が、このあたりのタイミングで、主にプレイヤーの体力的な問題で協議終了となりました。フリーシナリオの勝利条件は1000HTの資産で、僕の手持ち現金がすでに600HTほどありました。香辛料市場に大量売りを仕掛けたので相場が全世界的に落ち着いてしまってはいましたが、このまま行けばあと2ターンもあれば勝利条件に達していたと思います。

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が、当然ながらそうはすんなり勝たせてもらえるわけはなく、戦闘に突入する展開に持ち込まれたでしょう。何しろつなきさんは非合法品の Battle Comm Pod(電子戦用ポッド)を入手しており、やろうと思えばいつでも迎撃から戦闘に持ち込むことは可能な形になっていました(この電子戦用ポッドが場に出てきた時の緊張感といったら…!)。しかもこの時つなきさんは、サボタージュに大きな修正値をもつ Dwarf まで持っていたのです。

また交易面でも、他の2人とも大きな利益を上げる形が出来ていたので、もっと時間があればかなり面白い競った展開になっていたと思います。終了時点で全17ターン、プレイタイムは実質的に7時間半ほどでした。時間を短縮するために船の設計は事前に行っておくなど工夫をすれば、1日あれば十分に終わるゲームですね。

レポートは以上です。長時間に渡ってお付き合いいただいたつなきさんと taro さんには心から感謝いたします。長い期間をかけてルールをリライトした甲斐があって、長年にわたって機会に恵まれなかったゲームをついにプレイすることができました。ありがとうございました。またぜひ再戦しまししょう!moon Gamer

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moon Gamer>「『ほう、これは良いテンの毛皮ですね。今年はどの作物も豊作で、テンの入荷が少ないのです』
テンは市場に出回る約半分のものが農作業の合間に農夫達によって狩られるものだ。そのため、作物が豊作で農作業が忙しいとその供給も減る。ロレンスは少し強気に出ることにした。」

~「狼と香辛料」第1巻P123~P124より引用~

「狼と香辛料」にはこのように、行商人と買い手(あるいは売り手)との間で商品の価格を決める対面交渉が行われるシーンの描写があります。このような交渉の結果、条件が折り合わなければ売買は成立しないでしょうし、また逆に思わぬ高値が付くこともあるようです。

「Star Trader / SPI」では、このような具体的な交渉そのものは行われませんが、商品の売買価格や取り扱い数を決める方法は、他に類を見ないユニークなルールによって構成されています。相場をにらみつつ、適切な値付けを行わなければ、売買の機会を失ってしまうかもしれないのです。相手が人間であろうと市場であろうと、自分の都合だけを押しつけては商いは出来ません。

このエントリーでは、「Star Trader」の商品取引メカニクスについて解説します。


Star Trader / SPI moon Gamer

知力・体力・時の運。

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入札

ターン開始時に各プレイヤーは、そのターンに行いたいすべての取引について、プレイヤーログシートにプロットします。どの恒星系で、どの商品を、いくらで、「売る」か「買う」かを、希望する取引数だけ書きます。この入札は秘密入札であり、実際に取引を行う時点まで、他のプレイヤーには非公開となります。

取引

購入か売却の取引を行いたい商品について、まずは需給状態のチェックを行います。通常の価格変動時と同様に2D6のダイス目を、該当商品のS/D修正値と加算します。この結果がS/D指標となり、そこに「S/Dマーカー」を置きます。マーカーの位置が、その商品について、現在の需給状態を示します。

すなわち、これがマイナスなら「需要」(市場で商品の買い手が多い)、プラスなら「供給」(市場で商品の売り手が多い)状態というわけです。

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商品の需給チェック

もし、プレイヤーがプロットした取引が「購入」の場合、S/D指標が「供給」(プラス)でなければなりません。また逆に、プロットした取引が「売却」の場合、S/D指標は「需要」(マイナス)でなければなりません。

もし、「購入」を指定したにも関わらず、市場のS/D指標が「需要」であったり、あるいは「売却」を指定して市場が「供給」である時には、いずれの場合もプロットした取引は成立せず、何も行われません。

商品購入

無事取引が成立した場合、プレイヤーが提示した額をチェックします。ここでは「購入」の場合について説明しましょう。

提示額から現在の商品価格を引き、その差と同数の商品相場修正値を持つS/Dトラック上のマスを参照します。商品相場修正値は同じ数が3マスありますが、購入の場合はこの中から「最も左側のマス」を参照します。便宜的に、このマスのことを「基準マス」と呼びましょう。そしてダイスで導き出されたS/D指標と基準マスの間のマス数を最大値として、該当商品の購入が行えます。

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これも文章ではわかりずらいので具体例で説明しましょう。

まず対象となる商品は、相場価格が「9」で、S/D修正値が「-8」の香辛料です。この状況で、プレイヤーAは、この香辛料を「11」で購入するとプロット(オファー)しました(プロットは実際にはログシートに記載する秘密入札です)。

取引開始です。2D6のダイス目は「10」でした。これによってS/D指標は「+2(=10-8)」となり、そこにS/Dマーカーを配置します。市場は供給状態を示しました。したがって取引は成立し、香辛料を購入することが可能となります。

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もし、このダイス目が「5」だった場合、S/D指標は「-3(=-8+5)」とマイナスになり、市場は需要状態となります。つまり市場に売る香辛料がないということなので、購入は出来ません(取引不成立)。

さて、プレイヤーAは「11」という購入価格を提示しました。現在の相場価格が「9」なので、提示額を引いた「+2(=11-9)」が基準マスとなります。商品相場修正値の「+2」のマスは3つありますが、「購入」なので、最も左側のマスが基準マスとなります。

プレイヤーAは、S/D指標と基準マスの間にあるマスの数だけ香辛料を購入可能です。この場合は9マスなので、9つまでの香辛料を、単価11で購入可能です。

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プレイヤーAは5つの香辛料を購入することにしました。提示額が単価11なので、55を銀行に支払って香辛料を5個手に入れます。

この後で、S/Dマーカーを、プレイヤーAが商品を購入した数だけ左に移動させます。そして、マーカーを移動した先のマスにある商品相場修正値を、今回の取引対象となった商品の価格に反映させます。この場合「+1」なので、香辛料の相場価格は「9」から「10」へ上昇します。

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つまり、プレイヤーAが香辛料を買い付けたことで、この市場の香辛料は供給から需要へと一気に転じ、その結果として価格の上昇を招いた、ということです。


このように「Star Trader」では、プレイヤーが市場で何らかの取引を実施することで、その相場価格や需給状態がダイナミックに変動します。これを上手く利用すると相場を自分自身で操作したり、相手の取引を妨害することも可能ですが、ダイス目によっては期待する取引が成立しないこともあるので、これらの操作をすること自体にもそれなりにリスクも背負います。

このように、ダイス目によって取引が成立しないことがあるなど、確実な儲けを出すのはなかなか難しくなっており、ひょっとしたら運の比重が高いと思われる方もいるかもしれません。実際その通りです。しかしこれは「新参の行商人」をのロールプレイさせるためのデザインとしては、極めて妥当なあり方でもあるのです。

「フリーシナリオ」において、ゲーム開始時にプレイヤーは、まだ取引に不慣れな行商人であるという設定になっています。したがって相場の動きを読むことにも取引の交渉にも慣れておらず、無駄なミスも多く発生することでしょう。こういった状況を、抽象的ながら状況を的確に表現しているわけです。

しかし最初は新参者であったとしても、いつまでもそうであり続けるわけではありません。何度か取引を成立させたら「経験」を積み上げたこととなり、より柔軟に取引を行うノウハウが身につき、商人として「成長」していきます。「Star Trader」ではこの過程もまた表現されており、それは「マーケットポジション」というルールにあたります。それについてはまた別のエントリーでご紹介しましょう。 http://www.boardgamegeek.com/game/3534


Episode-3 へ続く

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moon Gamer>「私がヨーレンツで塩を買った際、そこでお金は払いません。私は別の町にあるその塩を買った先の商会の支店にほぼ同額の麦を売っていたからです。私はその支店から麦の代金を受け取らない代わりに、塩の代金を払いません。お金のやり取りをせず、二つの契約が完遂されるのです」

~「狼と香辛料」第1巻P80より引用~

ライトノベル「狼と香辛料」は、中世ヨーロッパ風の架空の世界観と、その世界での行商人から見た経済の設定とが極めて綿密に作り上げられているファンタジーです。上の引用文は主人公ロレンスが述べたセリフのひとつで、これは為替のシステムそのものです。このような経済的概念が、ただのウンチクではなく、物語を構成する主要素となっているのが「狼と香辛料」の大きな特徴のひとつです。

「狼と香辛料」でロレンスは行商人です。荷馬車を使い、街から街へと商品を売買することを生業としています。簡単に言えば、モノを安く仕入れて高く売り、その差額が儲けになるわけです。

行商人が扱う「商品」は、買うにしても売るにしても、それがどのようなものであれ街ごとに相場があります。これらの相場は、人づてに情報収集を行う描写があります。同業者同士のつながりはあらゆる意味で有益なのです。

なお商品に相場があったとしても、その価格は確定的なものではなく、具体的な金額は取引の場で対面による商談を行うことによって決まるようです。

行商人が効率的で割の良い行商を行うには、より多くの経験を積んで、多くのノウハウを身につけなければなりません。ロレンスも12歳で師匠に弟子入りし、18歳で独立、現在25歳で6年ほどの経歴(1巻時)があり、物語の中でも豊富な知識を披露するシーンがあります(もっともそれは、師匠譲りの知識を暗記しただけのようですけど)。

また行商人は長くキャリアを積み上げることで社会的信用も増します。商人による取引は互いの信用が極めて重視されているのです。しかし細かい取り決めには契約書を使います。この世界には公的な機関によって契約の証人になってもらう公証人制度も存在します。

たいていの行商人は、街ごとの権力者たちが作り上げた法律にしたがった正当な取引を行っています。これを破ると裁判にかけられ、腕を切り落とされるほど厳罰に処されます。

しかしそれをうまくすり抜ければ莫大な利益を生むかもしれません。これに目がくらんで、あるいは他に窮地を切り抜ける手段がなくて、非合法な密輸に手を出すこともあります。

また、行商人はしばしば、理不尽な暴力に見舞われることがあります。行商人の目的は遵法な方法で資産を増加させることなのですから、本来はそのような手段を取ることはまずありえませんし、むしろこのようなトラブルは避けようとするでしょう。

しかし、望まなくても身に降り掛かって来た火の粉は振り払わなければなりません。自衛のために、少なくとも自分の身だけは守る手段を用意しておくものです。街から街へ大量の商材を持ち運ぶ行商人たちの腕っ節は、実は意外と強いものなんだそうです。


moon Gamer

「狼と香辛料」はアニメ化された(現在は放送終了)ほど人気を誇る作品で、僕はそのアニメをきっかけにして原作を読み始めました。

そして読む進めるにつれ、「狼と香辛料」に書かれている経済的な設定やそれに関連する描写が、「Star Trader / SPI」に盛り込まれているゲーム的要素とが多くがシンクロしていることに気がつきました。

上に書いた「物流管理」「商品の価格相場」「価格差で利益を出す」「行商人としての経験」「社会的信用」「契約書」「公的権力の存在」「情報収集と対人関係」「ハイリスクハイリターンな非合法の密輸」「最後の手段としの暴力行使」等々は、実は「Star Trader」においても網羅されているのです。

残念ながら「Star Trader」には琥珀色の目をした獣耳少女は登場しません。しかし完成まで1ヶ月もかけてリライトした和訳ルールを読めば読むほどに、このゲームが行商人としての喜びや悲哀を余すところ無く体験することができる魅力的な環境に思えて仕方がありませんでした。

ルール分量の多さや所有者が限定されるなどのハードルは思いのほか高く、実際にプレイする機会を得るまでにもう少し時間がかかるかと思っていたのですが… なんと、こうしてプレイ意欲が高まっているところにちょうどつなきさんから「Star Trader」会セッションのオファーが入りまして、taroさんと共にこの日のゲーム会開催までとんとん拍子で段取りが決まってしまったのでした。

moon Gamer「Star Trader」。プレイヤーは6つの恒星系に点在する18の商品相場と4種類の投機商品(アイソトープ・超合金・モノポール・香辛料)について、刻々と変化する相場と思わぬアクシデントを乗り越え、より多くの資産を蓄えることを目指す、大規模で精密な交易ゲームです。

このゲームが発売されたのは1982年で、今から26年も前のことです。しかもこれは雑誌の付録ゲームでした。独創的で他に類を見ない交易メカニクスは一部で熱狂的な支持を得ましたが、この作品は単体で発売されることもなく、残念ながらこの名作は歴史に埋もれてしまいました。

このエントリーでは、この「Star Trader」を丸一日かけてプレイしましたので、そのご紹介を含めてレポートしたいと思います。


Star Trader / SPI moon Gamer

倉庫を探したら3冊もありました。3人。

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29日(土)は、千歳烏山はゲーム倉庫にて、「Star Trader / SPI」をプレイしました。集まっていただいたのは、つなきさんとtaroさんで、僕を入れて3人でプレイとなりました。

「Star Trader」は行商のゲームです。ボードには6つの恒星系が描かれていて、プレイヤーは各恒星系の市場で取引を行うことで利益を目論みます。それぞれの恒星系には、最大で4種類の投機商品を取り扱う市場があります(商品が1種類のみの恒星系もあれば、4種すべてある恒星系もある)。その市場で取り扱われる投機商品の現在の相場価格は、商品ごとにマーカーによって示されます。

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例えば上記は、4種類すべての商品を取り扱う市場を図式化してものです。この市場では、その商品のひとつである「Alloys(超合金)」の相場が「8」であり、同じく「Spice(香辛料)」が「10」であることを示しています。商品相場表は「1」~「20」まであって、その間で相場価格が変動するという意味です。そして相場が変動すれば、相場マーカーもその価格のマスに移動するわけです。

さて、相場マーカーには「SD」と書かれたキーワードがあります。ルールでは「S/D」となっているので、以後、そう表記します。この「S/D」とは 「Supply(供給)」と「Demand(需要)」のことで、市場における価格変動や取引価格を決定するための重要な指針値です。

S/D指標(S/D Index)について基本的な概念を説明しましょう。S/D指標は「プラス」か「マイナス」(あるいはゼロ)を示します。S/D指標が「プラス」の商品は市場に豊富にあり、それは市場にとって「供給(Supply)」状態であることを示します。供給、つまり売りに出されているわけですから、プラスの値が大きければ大きいほど、より多数の商品が安価で入手可能であるということです。

逆にS/D指標が「マイナス」の商品は市場で不足していて、それは市場にとって「需要(Demand)」状態であることを示します。つまり商品が不足していて買いたいという人が多いわけですから、この値が低ければ低いほど、より多数の商品を高価で売却可能であるということです。

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さて、ではこのS/D指標をどのように使って商品価格の変動を行うのでしょうか? それには「S/D Track(S/Dトラック)」という表を使います。S/Dトラックは以下のような表です。

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S/Dトラックの上の段には「S/D Index(S/D指標)」、下の段には「Price Modifier(商品相場修正値)」が書かれています。「S/D指標」は-18~+18まであり、それに対応する「商品相場修正値」は+7~-6まであります。上の図は、「S/D指標」の-7~+7付近を抜粋したイメージです。

基本的な商品価格の変動について、S/Dトラックを使って行うには以下のようにします。まず、2D6のダイスを振ります。そしてその目の合計に、該当商品の「S/D修正値」を加算します。この結果に一致する「S/D指標」値を示すマスの「商品相場修正値」が、その商品の価格を変動させる値になります。

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文章だけではわかりずらいので、具体例で説明しましょう。

まず現在の相場が「5」となっている右のようなアイソトープの価格を変動してみます。見ての通り、このアイソトープのS/D修正値は「-9」です。

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2D6のダイスを振った結果は「7」でした。これにS/D修正値の「-9」を加算します。

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ダイス目「7」とS/D修正値「-9」を加算すると「-2」です。つまりこのアイソトープは市場で「需要」状態であるということです。端的に言えば、欲しがっている人が多いということを表します。

そしてS/Dトラック上のS/D指標値が「-2」のマスを参照します。そのマスに書かれている商品相場修正値は「+1」でした。買いたいという人が多いのですから、必然的にその値が上がったということです。

moon Gamer


したがって、このアイソトープの価格は「5」から「6」へと上昇します。

このように、各商品市場のS/D修正値を見ることによって、相場がどのように変動していくかの予想を立てることが出来るのです。

この価格変動は、プレイヤーがその商品の買い付けや売却を行わない場合に行われるものです。それでは商品が売買の対象になったらどうなるでしょうか? それについてはまたエントリーを分けて説明しようと思います。
http://www.boardgamegeek.com/game/3534


Episode-2 へ続く

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